第1章

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扉が閉まり、走り出した電車の窓から見えるホームと、そこを行き来する人々を眺めながらミッコは呟いた。 「やっぱりこっちは人がいっぱい居るね」 「うん、私も最初は緊張したけど」 その友達はミッコより三ヶ月前に小樽から横浜に出て来ていた。 ミッコとその友達は高校を卒業した後に、小樽のファミレスでバイトをしているときに知り合った。美容師を志望していた友達はバイトをしながら通っていた美容師の学校を卒業して、その学校の紹介でこの春から横浜の美容室で見習いとして働いている。 ミッコは横浜に来て何をしたいといった目標はまだ無い、でも小樽では、幼いころからの自分を知る人々のいる小樽では、自分の気持ちの通りに生きることが難しい。 「札幌まで出ないとこんなに人が居ないよね」 「人はいっぱい居るけど、みんな回りのことなんか見ている余裕は無いみたいだからミッコもまわりを気にしなくていいよ」 「うん、ありがとう」 電車は二つ駅を過ぎて左手にオフィス街のビルが立ち並ぶ辺りに差し掛かると右手にはデパートや居酒屋などが入るビルが見え始めた。その、それほどの高さのないビルの背景に小高い山が見える。 「あんなところに山があるよ、なんか不思議」 「ああ、あの店はあの山の辺りだと思うよ」 横浜市西区弁天町。 横浜からJR線で3駅先の関波駅を降りて駅前を交差する国道から西側の一本先に併走する道路沿いにその店はあった。その一帯は横浜では古くからの繁華街で駅の反対側にはオフィス街が広がる土地柄の為か、クラブ、バー、スナックなどの飲み屋の多い街でもあった。その店の裏側には小高い山があり、その山の上には神社があった。その神社には弁天様が奉られていて、弁天町という地名の由来はそこから来ている。 ミッコとその友達はその店がある5階建てのビルの下にいた。 午後7時を過ぎてその店の前の通りは夜の喧噪に包まれ、サラリーマンのグループやカップルが行き来している、その顔には一日が終わった後の開放感が溢れている。 そのビルの入り口の上にはビルに入っている店子である店の看板が縦に連なっていた。 その看板を目で順に上に追っていくと3つ目に「OLIVE」と書かれた極彩色に彩られた看板が目に入った。 綺麗な色の看板だなと思いながらミッコは友達にこの店だねと確認した。 「そう、ここだよ」 店の入り口に来てみて、なんだか気持ちが萎えてしまった。
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