第1章

5/41
前へ
/41ページ
次へ
「あらそうなの、二人とも北海道なんだ、奇遇ね」と男性も嬉しそうに答えた。その後、お互いの地元に関する話のやり取りが何回かあった後、ミッコは履歴書を取り出して簡単に自己紹介をした。そして、こういう仕事はまったく初めてであることを付け加えた。 その男性は笑顔で履歴書を受け取り、一通り目を通すと一旦横のテーブルに丁寧に置いた。 「うちはね、接客だけじゃなくてショーもやってもらいたいの、もちろんすぐにではなくて慣れてきてからだけどね、どう?興味あるかしら?あなたと同じタイプの子も何人か居るのよ」と言うと、横のステージでダンボールの中を整理している「男の子」に目をやった。 ダンボールの中には色とりどりの衣装が入っているようで、衣装とその明細が書いてある紙の内容をひとつひとつ照らし合わせているようだった。 「面白そう、やってみたら?私も見に来たい!」と友達の美穂が言った。 「僕、音感が無いから自信無いですけど、大丈夫ですか?」ミッコの声が少し弾んだ。 「それはそれで味が出るのよ」とその男性は微笑んだ。 そして思い出したように付け加えた。 「そういえば、自己紹介してなかったわね、私はパールです、この店のマネージャーもやっています。このあと時間が許せば、営業が始まるから暫く見ていかない?」 「あっ、見たいです、美穂ちゃんもいいですか?」 と言いながら友達を見ると、友達はパールを遠慮がちにちらりと見た。 「どうぞ、お二人で」とパールは両手を広げて微笑んだ。 「じゃあ見学させてください」 ミッコはパールに頭を下げた後、ステージの「男の子」を見るとその彼もミッコを見て微笑んでいた。 1 そうして「OLIVE」に入店すると、ミッコの源氏名は「ウミ」と付けられた。 本名の海子(みこ)の海からだった。 それを自分で申告したとき、パールからは「なんだか語呂が悪いわね」と言われたが、それは以上は何も言われなかったのでそのままウミとなった。 「ウミ」と名乗るようになってからの1年間は瞬く間に過ぎていった。 その一年の間にショーのステージにも参加するようになり「OLIVE」のスタッフの一員としての毎日を送るようになっていた。 一年を過ぎてから半年の間には指名が入るようにもなってきた。 その日はウミを指名するまだ数少ない客の一人で、近くのクラブのホステスである涼子が友人のいづみを連れて遊びに来ていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加