うそ。

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「ここはどこ?」 「ここは楽しい遊園地だよ」 「やった! 乗り物はどこ?」 「ここだよ」 カラカラと音がなるブリキのおもちゃ。 「わぁ、可愛い!」 「キミが乗ることはできないけど、小さな住人たちが乗るよ」 親指サイズの手作り人形。 これがとってもブサイクで、縫い目が雑であちこちから綿がはみ出ている。 しかし少女は目を輝かせた。 「この子たちが車の乗り物に乗るのね!」 「そうだよ。コーヒーカップや、ジェットコースターにも乗るよ。ここは遊園地なんだから」 「いいなぁ、私も乗ってみたい」 「乗れるよ」 「本当に!?」 「もちろん。ここは遊園地だからね。ほら、しっかりベルトを締めてご乗車下さい」 男は手足のない少女の体を抱き上げた。 「僕はジェットコースターという名前の乗り物なんだ。ほら、いくよ」 少女を高くかかげて部屋の中を走り回る。 部屋には鏡がなかった。 人間の形をした人形やぬいぐるみもなかった。 テレビもなく、人間が出てくる絵本は男に手作りされていた。 その絵本に出てくる誰もが、手足を持たない人間だった。 「あはははは!」 少女の楽しげな笑い声に、男はたまらず涙が出た。 「どうしたの? 泣いてるの?」 「楽しくて楽しくて、泣いてしまったんだよ」 「へぇ、ジェットコースターさんも泣くんだね」 無邪気な少女の声が、その病室からいつまでも聞こえていたのだった。
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