公園で会ったあの人

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「まるでシンデレラのようですね」 「魔法が解けるのは私じゃないわ……」  少し自信を失くしていた。不安が拭えなかった。私のような変わり者は、この先、生きていくことさえ難しいのではないかと思っていた。でも、違う。他の人に少し寄り添うだけで、受け入れるだけで、きっとあの会社でも今より楽になれる気がした。変われる気がした。 「あっ、ほら鐘が鳴りますよ」 「えっ……!」  鐘が鳴り始める。機械仕掛けの時計塔のベルが、プログラムされた順番通りにけたたましく音を鳴らし、池の水面や周囲の木々に反響させて曲を奏でる。周囲の鳥が慣れた様子でバタバタと飛び交う。  鐘は季節ごとに奏でる曲を変える。今の季節はヴィヴァルディの『春』だ。その中の数小節を奏で終えると、時計塔は余韻を残しつつ、元の静かな金属の塊に戻った。  ふと、ベンチの横を見たとき、レンはそこにはいなかった。  私は立ち上がり、鞄から車の鍵を取り出すと、足早に駐車場へ向かった。来たときよりもずっと心が軽く、気分が穏やかだった。  私はレンのように心の声は聞こえない。けれど、 『いつでも会える、またゆっくり話しましょう』  そんな声が、聞こえた気がした。
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