寄り添うように

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 イベント会場ではフリーマーケットのブースが並び、市内の商店がテントを連ねて様々な食べ物が売られている。大勢の人混みで賑わっていて、私の知らない公園のように感じた。  私は特に見たいものがあるわけでもないし、お腹が空いている訳でもない。ただなんとなく、なんの意味もなく、他の人に紛れるためだけに露店を回った。  楽しそうなフリをして歩いた。ハンドメイドの雑貨、新鮮な野菜、美味しそうな焼きそば、よく冷やされたペットボトルのドリンク。どれも私には興味がないし、全く欲しいとは思わない。それなのに何故、私はこんなところにいるのだろう……もう帰ろうかな。 「ね、ね、おねーさん!」  突然、後ろから服を引っ張られて振り返ると、かわいい顔をした高校生くらいの男の子がにこにこしながら私を見ていた。……だけど、知り合いに高校生の男の子なんていない。 「ね、喉かわいてない? 一緒にあっちで休もうよ?」 「えっ、別に……」  その男の子はとても綺麗な目をしている。つい、じっと見つめてしまった。男の子は小さな子どものように、きょとんとした顔で、私をじっと見ている。その男の子と私は少しの間、見つめ合っていた。 「すみません!!」  大きな声が聞こえると、その男の子は友達に引っ張られて、視線が逸らされてしまった。友達が申し訳なさそうな顔をして、何度も私に会釈をしながら、その子を連れて行く。 「バカッ、知らない人に話しかけたらダメだろ?!」 「だって……可愛いおねーさんだったからさ」  友達に対して、あきらかに不機嫌そうな顔をしていたその子は、こちらに振り返ると、手を振りながらにっこりと笑って友達と人混みに消えていく。見るものを惹きつけるような、不思議な表情をするその子をじっと見つめたまま、私は身動き一つ取れなかった。何故か、動悸が止まらなくなる。気になって、彼らを追いかけようとしたその時、後ろから腕を掴まれた。 「お友達ですか?」  聞き覚えのある声に振り返ると、レンが優しそうな、前と変わらない微笑みで私を見ていた。 「知らない子に声をかけられて……でも、なんだか気になって」 「ウタノは、可愛い感じの男性が好みなのですね」 「ち、違うわ! そういうんじゃない……」  レンが、私の腕を掴んだまま、目を細めて彼らの消えていった方向を見つめた。何故か、その表情がとても寂しそうに見えたような気がした。
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