手を離して

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手を離して

 人混みに戻ると、レンと手をつないだまま、さっきの子を探した。もう一人の子と二人でいるのだろうか、いや、もっと大勢で来ているのかもしれない。もしかしたら、もう帰ってしまったかもしれない。  遠くばかり見て人にぶつかるし、背の高い人が前を塞いで何も見えなくなる度にイライラする。この人混みで一方的に人を探すなんて、無理なのかもしれない……。 「ウタノ、ウタノさん」 「……何よ! レンがあのとき止めなければ!」  私はそこまで言って、はっとして振り返った。レンのせいじゃない。  レンは、少し困ったような顔をして私の方を見ていた。私を振り払うことなど、男であるレンなら簡単に出来たはずだ。けれど、レンは手を離さずに私のあとを追いかけていた。 「そうじゃないんです、ウタノ……」  私は人混みの中で、レンの手を強く握った。  私は、何をやっているのだろう。レンに会いたくて公園に来たのに、せっかくレンに会えたのに、今は、レンの気持ちを無視して知らない子を探している。私は、レンにものすごく失礼なことをしている……。 「……ごめんなさい」 「ウタノ、謝らないでください」 「どうしてこんな私に付いてくるの、振りほどこうと思えば簡単に……」 「それは、ウタノが離さないのに、僕から離す理由がないから」  レンはそう言うと今度は私を引っ張り、人混みを抜けるように木々の間を抜けて別の通路に出た。私はずっと、無言でレンのあとを追いかけた。
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