手を離して

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「っ……!」  突然、レンが手を強く握り、私を引き寄せる。私は声も出せずにレンの顔がものすごく近づいていることに気がつき、戸惑う。 「僕が、悪い奴だったらどうするんですか。僕なら簡単にウタノを騙すことができる」 「そ、そんなことない、レンは悪い人なんかじゃない!」 「僕には、貴女の心の声が聞こえる。貴女が今、何を思っているのか、どうして欲しいのか、手に取るように理解できます。そんなに簡単に他人を信用してはいけない」  私は何も言えず、黙ったままレンをじっと見つめた。私は簡単に他人を信用しない。直感として信用してはいけない人くらいは見抜いているつもりだし、レンがそんな人じゃないことはわかってるつもり……だけど、私はレンのことを何も知らない。どこに住んでいて、どんな仕事をしているのかも、レンというのが本当の名前なのかも……。  でも、レンと話していると、ずっと前から知っていたような、懐かしいような感覚があった。それが、何よりも私を安心させた。  さっき、レンが言いかけていたことを思い出す。
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