公園で会ったあの人

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「あの、私はウタノといいます。貴方は?」 「ウタノさん、素敵なお名前ですね。僕はレンといいます」 「レンさん……」  私はお世辞を言うのが苦手で、つい黙ってしまった。格好良い名前だとか、どんな漢字を書くのかと聞くことも出来たのに。けれど、私は別にレンさんとお見合いをしている訳では無いのだから、ここでの呼び方が決まれば、もう二度と会うことも無い相手のことを細かく聞くことも無意味だ。 「ふふっ、ウタノさん。それでは鐘が鳴るまで、僕の話を少しだけ聞いてもらえませんか」 「はい……わかりました」  レンさんは微笑みながら、時計塔を眺めた。無機質な時計塔の銀色が、陽の光を浴びている。 「もうお気づきかもしれませんが、僕は少し変わっているんです。えっと……そうですね、きっと病院では何かしらの病名をつけられると思います」 「それは、精神的な病気か何かということですか?」 「まぁ、そうかもしれない。この国では特に、他人と同じに出来ない人を差別したり区別したがる傾向が強いですからね」 「はぁ……」   突然"僕は変わり者です"なんて言われても、どう反応して良いのかわからず返答に困る。  自分が精神障害や人格障害だと言いたいのだろうか。でもなぜ、いきなり私にそんなことをカミングアウトしたのだろう。  興味本位で、私もインターネットで検査をしてみたことがある。どれも医者にかかることを勧められるので、あまりあてにならないのだと思っていた。 「こんなことを言うのは失礼ですが、ウタノさんも僕と少し似ています」 「えっ?!」 「それらの検査は、あながち間違いではありません。けれど、ウタノさん自身はそのことでは困っていない。少し、周囲とうまく馴染めないとか、孤立しがちなだけで……」  ……言葉を失う。私は今、何も話していない。そうだ、この人は最初から私が心の中で思ったことを…… 「あ、あの」  私の言葉に、はっとしたような顔をしてレンさんは視線をそらした。 「すみません、ウタノさんの心の声が、あまりにも素直に聞こえてしまって、悪気はないのです。本当にすみません」  そう言うとレンさんはベンチから立ち上がろうとした。私は咄嗟に身体を捻ると手を伸ばし、レンさんの腕を掴んだ。 「まだ、鐘が鳴るまで時間があります」  私は、じっとレンさんの目を見つめた。
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