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「気持ちが悪いと思いませんか、頭の中を覗かれているのですよ」
「構いません。私は嘘はつきません」
予想外の反応だったのか、レンさんはじっと私を見つめていたものの、さっきまでの微笑を取り戻すと、自分の腕に張り付く私の手を優しく握った。
「その、レンさんっていうのやめてください、僕のことはレンと呼んでください」
「えっ、そ、そこですか」
くすくすと笑うレン……は、とても透き通った笑い方をした。他人の頭の中が分かったら、私ならきっと人間不信になる。きっと、こんなふうに笑うことはできない。
「そうでもないですよ。誰もが僕に心の声を聞かせてくれるわけではない。特に、ウタノさんが思うような、心と言葉が一致しない人の心の声は、聞こえないものなのです」
「……私のこともウタノと呼び捨てにしてください。私だけさん付けなんて不公平です」
「そうですね。それではそう呼ばせていただきます」
あたしは笑顔を作ることができなくなる。作り物の笑顔なんて、レンに見せても意味がない。
「……ウタノ、貴女は素直すぎるんです。だから、この社会では生きづらいと感じているだろうと思い、過ぎたことを言ってしまいました」
ベンチに座りなおしたレンから手を放す。私は他人に合わせるのが苦手で、私は私、そう思って生きてきた。それで困ったことなんて無かった。けれど、この社会では他人との関係を全て断ち切ることはできない。
今まで他人に合わせるということをしてこなかった分、社会に出てからは同僚や上司、社会のルール、よくわからないマナーや常識というものに戸惑うことばかりで、やはり、自分は間違っていたのだと思い知らされていた。
「ウタノはウタノです。それは他人に合わせたからといって、無くなるものではありませんよ。生きづらくて当たり前なのです。そのようにカタチ作られていますから。ウタノだけじゃない、誰もがそう感じています」
優しく微笑むレンの言葉は、確かに心に響いた。今までは誰も、そんなことは言わなかったから。
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