しかと道照る、一等地

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 電車に乗ってバスを乗り継いで。  お弁当には、光希坊っちゃまの大好きな五目いなりを持って。  富永家のお家からとても遠い郊外にある動物園でしたが、光希坊っちゃまは喜子さんに連れられ出掛けました。  ──ねぇ、喜子さん!ウルルだ!ウルルがいるよ!ホントに真っ白だよ!──  ──ええ、坊っちゃま。本当に白うございますねぇ──  ニホンジカを囲む柵。  その柵をぐるっと囲む縁にかじりつくようにしてはしゃぐ光希坊っちゃま。  そんな光希坊っちゃまに、喜子さんは穏やかに笑いかけます。  その様子は、まるで母子か年の離れた姉弟のよう。  ──喜子さん、ウルルの絵を描いたよ!──  ──まぁ、坊っちゃま、とてもお上手!坊っちゃまは本当に動物がお好きなんですねぇ──  ──喜子さん、売店でウルルのぬいぐるみ売ってる!──  ──まぁまぁ、坊っちゃま、売店へ行く前にお昼を召し上がらないと──  手を引き手を引かれ、二人は動物園を楽しんでいました。  きっと光希坊っちゃまにとって喜子さんは優しいお母さんのような存在で、喜子さんにとっても光希坊っちゃまは息子のような存在。  二人の間柄は、家族以上に家族だったのです。
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