しかと道照る、一等地

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「……ええ、ええ。お懐かしゅうございます……」  もちろん、私も光希坊っちゃまを桃ノ木動物園にお連れした事はよく覚えております、と……。  十八歳となった今でもあの頃の面影の残る光希坊っちゃまに、喜子さんは何度も穏やかに頷き掛けます。  あの頃の光景や思い出を、じっくり噛み締めているのでしょう。 「あれから十年くらいかな。桃ノ木動物園が閉園して……」  光希坊っちゃまはそぞろに、ちゃぶ台の上にある湯飲みに手を伸ばします。 「その時にウルルの事を思い出して、ウルルがどうなってしまったのか、自分なりに調べたりもしたんだ」  そして、湯飲みの中の冷めたお茶をゆらゆらと揺らしました。 「桃ノ木動物園の動物たちは他の動物園に移ったり、移動動物園に保護されたりしてね。──ウルルは、閉園前には死んじゃってたみたいなんだけど」 「……そうだったんですか……」  喜子さんは眉尻を下げて表情を曇らせます。 「だけど、ウルルには子供がいっぱいいてね。真っ白な子はいないけど、ウルルが突然変異で生まれたのもあって、保護研究施設に移されたんだ」 「保護研究施設に?」 「うん……」  顔を上げた光希坊っちゃまは、ふとカーテンの引かれた窓の方に目を向けます。  そして、ちょうど東南の方角を指差しました。
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