しかと道照る、一等地

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「あっちの方にちょっと行くとね、辰巳平(たつみだいら)って場所があるんだ。そこに動物の保護研究施設があってさ」 「え……?」 「そこに、ウルルの子供たちが保護されてるんだ」 「──…ウルルの、子供たちが?」  喜子さんは目を丸くしました。  その輝きには確信めいたものが宿っていました。 「もしかして、坊っちゃまがこの場所を選ばれたのは──」 「……家を出れさえすれば、どこでもいいと思ってた。だけど、あの家にいて一番楽しかった思い出がウルルを見に行った時だったから。だから、せめてウルルの子供のいる場所の近くに住みたいなぁって……」  伏せた睫毛がキラキラと──。  穏やかに浮かべる笑みは、大人っぽくもあり少年のようでもありました。 「ウルルはもういないし、子供たちにも会えるわけじゃないけど、自転車で施設の方を走ってみたりして、あの時の感覚を思い出してるんだ。ウルルに、会いに行った時の感覚」  照れたように笑う光希坊っちゃまに、喜子さんは自然と涙が零れていました。  ──ねぇ、喜子さん!ウルルだ!ウルルがいるよ!──  思い出される、光希坊っちゃまの声。 「誰もが、こんな所で暮らすより帰った方がいいって言うけど……。僕はここが好きだよ。僕が僕らしくいられるのは、ここのような気がする。幼稚だって笑われちゃうだろうけどね」  ──ここが、僕にとっての一番だから。  そう頼もしく笑う光希坊っちゃまに、喜子さんは涙が止まりませんでした。 「わかりました……。わかりました、光希坊っちゃま……。すっかりご立派になられて……すっかり自立されたのですね」  鼻をすすりハンカチで涙を拭う喜子さんに光希坊っちゃまは一瞬狼狽しましたが、すぐに「笑われるどころか泣かれるなんて」と困ったように笑いました。  そして、五目いなりをもう一つ摘まんで口へと運びます。 「ありがとう。ありがとう、喜子さん。これ、本当に美味しいよ」  頬張りながら、光希坊っちゃまの目にも光るものがありました。
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