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日が完全に暮れてしまう前にと、光希坊っちゃまと喜子さんはアパートを出ました。
光希坊っちゃまは喜子さんが遠慮するのも聞かず、駅まで自転車を押して喜子さんを送ります。
二人は高い堤防沿いの道を、ゆったりと歩きます。
その向こうにある川から、潮騒にも似たせせらぎが聞こえるような風情でした。
「ねぇ、喜子さん」
ふと、光希坊っちゃまは堤防の天辺のさらに上──暮れかかった空に浮かぶ月を仰ぎ見ました。
今晩は満月。
白くて丸い、朗らかな月でした。
「ここって月が大きく見える気がしない?見る度にいつもそう思うんだ。凄くピカピカで、外灯なんかいらないなぁって」
喜子さんも月を見上げ、大きく頷きました。
「本当に大きゅうございますね。きっとどんな高層ビルの高い所から見るよりも、大きく輝いて見えるのでしょうね」
そして、月を並んで仰ぎ見た瞬間。
二人はハッとした顔をして立ち止まりました。
「坊っちゃま……。今──何かがヒュッと……」
「うん、月の傍らで、何か一瞬だけ白い影が……」
堤防の天辺を、二人は放心したように見つめます。
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