しかと道照る、一等地

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 光希坊っちゃまは、親の敷いたレールをただ歩く日々に常日頃から息が詰まりそうな程の嫌気を感じていました。  お金持ちの家庭にいながら派手な嗜好は好まず、小さい頃からおとなしい性格で、好きな事と言ったら部屋で動物の本や図鑑を眺めてばかり。  そんな光希坊っちゃまを家族は奇異の目で見つめ、(ないがし)ろにしてきました。  お金持ち特有の高級嗜好からのズレも、光希坊っちゃまは幼い頃から自覚していました。  その自覚がはっきりと形となった、極め付きの出来事があります。  それは、ご両親が決めた大学受験に明らかに失敗したのに、コネやお金で裏口入学させようという動きがあった事を光希坊っちゃま本人が知った事でした。  良心の呵責と、何より恥ずかしさと情けなさに苛まれた光希坊っちゃまはそれから進学の道を蹴り、ご両親の反対を押し切って家を出ました。  勘当同然で家を出たので、ほぼ無一文からの新生活。  世間の荒波は厳しいものでしたが、それでも何とか働き口を見つけ、倹しい一人暮らしに身を置いているのです。
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