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喜子さんを部屋に通した後、「ここは私が」と取り仕切ろうとするのを押し切って、光希坊っちゃまは台所に立ってお茶を淹れます。
六畳一間の木造アパート。
流し台と一つだけのガスコンロ、小さな冷蔵庫。
今いる部屋の真ん中にはちゃぶ台があり、隅には畳まれた布団。
そして、衣類が入っていると思われる押し入れ。
それしかありません。
「殺風景だろ」
お茶を運んできた光希坊っちゃまが言いました。
「ほぼ着の身着のままで飛び出してしまったからね。家具や日用品を揃えるのにも一苦労だった。これでもいくらかマシになった方なんだよ」
お茶を前に深々と頭を下げると、喜子さんは心配そうに眉をひそめました。
「光希坊っちゃま。食べる物には困っておりませんか?幾分お痩せになったように見えます」
喜子さんは一層眉をひそめ、ちゃぶ台の前に腰を下ろす光希坊っちゃまに向き合います。
「痩せた?健康的になったって言ってほしいな。食べる物は心配ないよ。お惣菜屋さんで働いててさ。よく売れ残りを分けてもらってるんだ」
またのらりくらりといった風に、光希坊っちゃまは喜子さんの言葉を杞憂だとばかりに躱します。
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