しかと道照る、一等地

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「ああ、きっと志保(しほ)の西洋かぶれは相変わらずなんだね。やれタルトが食べたいだのマドレーヌだの……。我が儘ぶりが今でも目に浮かぶよ」  富永家の末っ子で光希坊っちゃまの二つ下の妹、志保さん。  志保さんは喜子さんが作った五目いなりを「田舎臭い」と貶しては「もっとオシャレな物作ってよ」と喚き立てた事がありました。 「いえいえ、とんでもない。変わらず活発で可愛らしくいらっしゃいます。お陰さまで、私も洋菓子にだいぶ詳しくなりました」  喜子さんは笑いながら肩を竦めました。 「晃一(こういち)兄さんは元気?」 「はい。お父様の会社の社長に就任されてからますます血気盛んで。お若いのに大層辣腕を振るわれてます」 「仁司(ひとし)兄さんは?」 「大学をご卒業され、めでたくお父様の会社にご就職されました。変わらず明朗でご家庭を賑やかにしておいでです」 「……そう」  光希坊っちゃまは二人のお兄さんについても軽く尋ね、どこか乾いた笑みを浮かべました。 「あの……。お父様もお母様もお変わりなく……」 「うん。だろうね」  二人とも病気するような玉じゃないからね、とも言いたげに。  遠慮がちに話す喜子さんとは対照的に、光希坊っちゃまは小さく笑います。 「あの……」  喜子さんはおずおずと口を開きます。  笑みを崩さぬまま、喜子さんの顔を窺う光希坊っちゃま。  言わんとしている事を解っている様でもありました。
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