しかと道照る、一等地

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 それはまだ、光希坊っちゃまが小学校に入ったばかりの頃。  動物が大好きだった光希坊っちゃまは、ある日、突然変異で生まれたという白いニホンジカの存在を知りました。  ニホンジカは通常全身の毛が茶色く、夏場に白い斑点は出来るものの、全身真っ白で生まれ成長するというのは非常に稀であると云われていました。  その白いニホンジカの名前はウルル。性別は牝。  桃ノ木動物園という所で飼育されていました。  光希坊っちゃまはウルルを見に行きたいと言い、桃ノ木動物園へ連れていってほしいとご両親にお願いしました。  ですが、家族全員に反対されてしまいます。 『そんな小さな動物園より、もっと大きなテーマパークの方がいい』 『どうせ家族で出掛けるなら海外でも行こうよ』 『鹿になんか興味はないわ。もっと楽しい所がいい』 『動物が見たいなら、そんな辺鄙な所よりもっと設備の整った有名な動物園に今度連れて行ってあげるから』 『光希、お前は我慢出来る子なのだから。家族全員の意見を聞き入れられるだろう?』  おとなしい光希坊っちゃまが初めてと言っても過言ではない我が儘を家族に打ち明けたのに、誰にも聞いてもらえませんでした。  それを見て不憫に思ったのは、富永家に家政婦としてやって来て一年ほどの喜子さんでした。  喜子さんは富永家のご両親に、光希坊っちゃまを動物園に連れていく事を申し出たのです。
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