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その人を見た瞬間、私はぴんと来てしまって、ちらっと光くんの顔を見てしまった。
光くんは普段素っ気ない表情をしていることが多い。それこそ女子が「大人っぽい」と思うような顔。単純に興味がないだけなのに。その彼が真剣に紫先生の顔を見ているのを見て、私は悟ってしまった。
終わった。彼女は間違いなく彼の好みだと。
私はグジグジと痛むものを感じたものの、それに蓋をすることにした。
もう小学校のときから、彼の趣味には気付いていたし、覚悟もしていたはずだ。光くんは絶対に私のことを好きにならないし、嫌でも私は彼の好みにはなれないってことに。
応援しよう。それがせめてもの、私の恋心にさよならする方法だと、私が一番よくわかっている。
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紫先生ははつらつとした性格で、あっという間にクラスに溶け込んだ。授業もわかりやすいし、質問のしかたや生徒からの質問への回答もよどみがない。おまけに女子とはすぐ仲良くなったし、男子とも友達感覚でしゃべれるのは大きい。
それでも。光くんは真剣に紫先生を見つめるだけで、なにもしようとしなかった。
「モーションかけなくっていいの? 二週間しか、学校にいないよ?」
私がこっそりと光くんに問いかけると、光くんは面倒くさげに私のほうに視線を寄こしてきた。
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