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会計委員の子は今にも泣き出しそうになり、紫先生も困惑気味だ。おまけに担任はこれを見守るだけで口を出さない……ここで担任がトラブルを解決してしまったら、教育実習にならないからかもしれないけれど、これには口を出したほうがいいんじゃないかって、ついつい思ってしまう。
たしかに回収日には誰も休んでいないし、少なくともうちの列では誰かが出していないとかはなかったと思うけれど。
どうするんだろうと思ったら、紫先生は普段の快活な声から一転、「今日もう一度先生が確認しますから、今日は一度帰りましょう」と硬い声で言って、解散となった。
紫先生は実習ノートだって書かないといけないはずだし、先生たちといろいろ勉強会だってあるはずなのに。掃除は「今日はいいです」と追い出されても、私はなんとなく気まずくってドアの前をうろうろしているとき、本当だったら帰るはずの光くんが教室に残っていることに気付いた。
紫先生が泣きそうな顔で、それこそ先生の皮が破れて大学生の顔が姿を見せている中で、光くんは紫先生の向かいに座った。
「先生、お金の計算、手伝させて」
「で、ですけど。これは私の仕事で」
「会計だって計算間違えたのかもしれないし、誰も忘れてないと思う。だから、もう一度」
光くんがそう言って、一緒に計算しはじめたのを、私はもやもやした気分で眺めて、ようやく先に帰る決心をした。
紫先生が可哀想だと、小学生時代の頃を思い返しながら、しゅんとした気分になって。
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