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『またお子に出会えたことが嬉しくて、ついやってしまった。許すが良い』
ふてぶてしい神である。
なんとも言えぬ表情を浮かべる私は、とりあえずと、神様の腕の中より脱出した。『あ……』っと切なげな声があがったのは、気のせいだと思いたい。いや、きっとそうに違いない。
流されまいと自分自身に言い聞かせ、こほん、と咳払いを一つ。神様の考えを聞き出さんと、口を開いた。
「あの……」
『いやなに、あの頃からちと独り身が寂しく思えてきてな。嫁を探していたところ、運よくお子がさ迷い歩いておって標的を定めたまでよ』
「……」
早く帰ろう。
思い立ち、踵を返した私を、神様は慌てて止めた。無理矢理に歩き去ろうとする私の腕を掴むその姿は、稀に見る必死さだ。
『まてまてまて! 待つのだお子よ! 我の妻ともあろう者が、そう帰りを急いてはならんではないか!』
「ありがとうございます。間に合っています」
『我といれば徳ばかりだぞ! 幸運も財運も爆上がりだ! しかも神徳まで得られる! お主が望むならなんでも与えられるのだぞ、我は!』
凄まじい殺し文句である。
そんなものに誰が引っ掛かるかと思いつつも、素直な私は足を止めて視線を後方へ。「なんでも……?」と、睨むように問いかければ、美しき神様は何度も首を縦に振った。どうやら嘘ではないらしい。
『妻の望みを叶えるのは夫の役目! なにか欲しいものがあるのであれば、なんでも申してみよ! 我の力、全てを持ってして、お主の願いを叶えようぞ!』
必死な神に、私は目を細めた。
そうしてならばと、胸の内にある願いを叶えてもらうべく音を発す。
「──私を殺してください」
神様は一瞬の躊躇いもなく、『わかった』と一言、頷いた。
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