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──優しい風が吹き抜ける。そんな社の、小さな一角。
見目麗しき神様が、白き着物の裾を揺らしながら、ぼんやりと空を眺めていた。すでに見飽きてしまった光景は、変わることなく、そこに広がり続けている。
『……はぁ、退屈だな』
かつて、それこそ一番はじめのその時に、妻と共に暮らした思い出。楽しいその時間を覚えているからこそ、今の神にとっては、一人の時間は凄まじく孤独であった。
だからこそ。そう。だからこそ、繰り返しているのだ。またあの時間を取り戻すために、何度も、何度も。
だというのに、なぜ一向に、事は上手く運ばないのか……。
『……さて、行こうか』
言って、神は歩き出した。
そうして歩み出た小道にて、目的の人物を見つけ、神はその場に舞い降りる。
驚いたように振り返った小さな子供が、大きく目を見開いていた。その姿は、既に何度も目にした、愛しき人のものである。
「……だれ?」
震える声に、恐怖を感じる。
人間の持ち得る闘争本能が働くのか、軽く後退する子供に、神はただひたすらに、表情を殺した。なぜお前は必ず同じ願いを告げるのだと、そう怒鳴り付けたい気持ちを、押し殺すために。
『いつかお前が大きくなったら、またココヘと来るといい』
なにも答えず。なにも与えず。
ただ一言そう告げて、子供を家へと帰してやる。
やがて来る再会の時。それまでに、少しでも子供が変わるように、そう願って……。
『……妻の願いを叶えるのは、夫の役目』
そうだろう?、と一人問う。
しかし、答えは生憎と、どこからも返ってくることはなかった。
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