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「先輩がストーカーされてなくて良かったぁ」今度は安心感で涙が溢れた。本当に、良かった。もし先輩が被害に遭っていたらと考えると、怖かった。大切な人が傷つけられるのは、自分が傷つくより辛かった。
安心でしがみつくと、先輩は心底びっくりしたような顔をした。まさか私がそこまで、先輩の国の優良民だと思わなかったのだろう。自分でもちょっとおかしいと思うけれど、本心なのだ。本気で、良かったと思っている。
呆然としていた先輩が口を開いた。
「君は……」
「はい?」
「……ううん。なんでもない」
先輩は首を傾げて、弾けるように笑った。
私は泣きじゃくっているというのに、どうしてこの人は笑っているのか。でも、理由なんてどうでもいい。好きな人が笑ってる。それだけでもう、こちらは心が満ちるものだ。
先輩が微笑んだまま言った。
「今度、愛染さんをモデルにしていいかな」
「私?」
「うん、愛染さん」
「……はい」
疑問マークがいっぱいだけれど、お役に立てるなら何よりだ。涙でぐっちゃぐちゃのこの顔面を見て、いったい何を閃いたのだろう。いや、そんなの分からない。神で王で私の唯一の浮津先輩の思考を、たやすく分かっていいはずないのだ。
でも、いつか、この人の考えていることを分かりたい。私の気持ちをわかって欲しい。それまで傍に置いてくれたら、何よりだ。
私は微笑んで言った。
「浮津先輩、ありがとうございます」
先輩がまた、私の大好きな微笑みで頷いてくれた。
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