浮津先輩がお呼びするならいつでも

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 駆けつけます!  と、声高らかに宣言すると、浮津先輩は「ありがとね」と朗らかに答えて、できたてのキャンパスの向こうから微笑みを露わにした。  ……好き。  笑顔が心を刺激する。心の内臓を刺激する。心の内臓なんて言ったら、もう凄い、言葉では言い表せないほど複雑な構造をしているだろうに、先輩の笑顔の煌めきは隅々まで行きわたって、ちくちく切なく刺してくる。 「愛染さんはいつも元気だね」  優しい声に包まれた先輩の笑顔が私一人に向けられた。そこらの絵画よりよっぽどよくできた完璧な微笑みである。私は生きた芸術を前にしているのかもしれない。これをもってすれば、私の内臓の傷など一瞬で治る。さすが先輩。奇跡の成す術。傷つけた後のケアまで怠らないなんて。 「元気にもなりますよ。先輩の絵がまた一つ完成したんですもん!」 「そっか」 「いやはや、委員会なんか出席してる場合じゃなかったですね。先輩、完成の報告メールありがとうます。出来たてホヤホヤの作品拝見できて光栄です!」 「委員会、抜けてきたの?」 「いえいえ違います。無理やり終わらせてきたのです」 「君、一年じゃなかった?」 「先輩。この非常事態に上も下も関係ないんですよ」 「非常事態かぁ」  「そこまで大変なことかな」と笑っているけれど、なんだか勘違いしているみたいだ。もはや先輩の存在が大変な騒ぎなのに。
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