0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
駆けつけます!
と、声高らかに宣言すると、浮津先輩は「ありがとね」と朗らかに答えて、できたてのキャンパスの向こうから微笑みを露わにした。
……好き。
笑顔が心を刺激する。心の内臓を刺激する。心の内臓なんて言ったら、もう凄い、言葉では言い表せないほど複雑な構造をしているだろうに、先輩の笑顔の煌めきは隅々まで行きわたって、ちくちく切なく刺してくる。
「愛染さんはいつも元気だね」
優しい声に包まれた先輩の笑顔が私一人に向けられた。そこらの絵画よりよっぽどよくできた完璧な微笑みである。私は生きた芸術を前にしているのかもしれない。これをもってすれば、私の内臓の傷など一瞬で治る。さすが先輩。奇跡の成す術。傷つけた後のケアまで怠らないなんて。
「元気にもなりますよ。先輩の絵がまた一つ完成したんですもん!」
「そっか」
「いやはや、委員会なんか出席してる場合じゃなかったですね。先輩、完成の報告メールありがとうます。出来たてホヤホヤの作品拝見できて光栄です!」
「委員会、抜けてきたの?」
「いえいえ違います。無理やり終わらせてきたのです」
「君、一年じゃなかった?」
「先輩。この非常事態に上も下も関係ないんですよ」
「非常事態かぁ」
「そこまで大変なことかな」と笑っているけれど、なんだか勘違いしているみたいだ。もはや先輩の存在が大変な騒ぎなのに。
最初のコメントを投稿しよう!