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六月始め、久乃はクラスの文化祭委員に選ばれた。帰宅部内でのじゃんけんに敗れたが故の、消極的な着任だった。
久乃は放課後、これから毎週二回は行われるという会合の、第一回が行われる空き教室に行き、そこで他の生徒たちと会の始まりを待った。
担当の教員が教室に来ると、まず、出席の点呼がとられた。1-1から始まったそれで、先生の口から「2-3、佐倉智紀」と出てきた時、久乃は反射的に教室内を見回してしまった。しかし、思い人の姿は教室内に無かった。
「佐倉ー…サボりか?あいつどこ行ったか、誰か知ってる?」
先生が二年生が固まって座っている方に向かって言うと、その中の一人の男子が返事をした。
「確か、うちのクラスと合同の五限目の体育の時に、途中で保健室行ってましたけど」
「じゃあ、まだいるかもな。一年、悪いけど佐倉呼びに行って……あいつの顔、わかんないか」
「あ、わかります」
久乃はつい、答えてしまっていた。「佐倉、下級生には有名だから」と、上級生に冷やかされるように言われ、久乃は顔を赤くした。一言だけだったのに、それだけで、自分が佐倉の事が好きなのが露れてしまったような気がした。
「じゃ、えーと、富澤さん、保健室まで佐倉呼びに行って。いなかったら、すぐ戻って来ていいから」
「はい」
久乃はなんだかいたたまれなくなって、早足で教室から出た。
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