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一瞬、久乃は恋心にまかせて、佐倉の言うなりなってしまいたくなった。
しかし、消極的に決まったとはいえ、久乃は文化祭委員だ。指示通りに動き、役目を果たさなければいけない。だが、久乃が無理にでも委員会に出席をするよう言ったら、佐倉は久乃をどう思うだろう。きっと、融通の利かない、煩わしい下級生だと思うだろう。それは、辛い。久乃は困惑を超えて、悲しくなってきた。
すると、佐倉が、無言になってしまっていた久乃に向かって、「あー、もういいもういい。わかったから」と言い、突然ベッドから立ち上がって久乃の横に立った。
久乃は先輩の服から漂う……柔軟剤だろうか…香りと、自分とは全く別物の身体の形と、それから、何故かわからないが久乃を惹きつけずにはやまない存在感にくらくらした。あの憧れの佐倉先輩が今、久乃と僅か数センチの距離に立っていた。
「場所、どこだっけ?」
明らかに様子がおかしくなっているであろう久乃を気にもせず、佐倉が聞いてきた。
「き、北校舎のっ、ご、五階の、一番端の、空き教室ですっ」
「げ、くそ遠い」
佐倉は踵を踏んだ上履きで保険室の出口へと歩き出した。動きはゆっくりなのに、彼の歩幅が広いせいで、後をついていく久乃は少し小走り気味になった。
そんなことにまで久乃の胸はときめいた。
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