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保健室まで佐倉を迎えに行って以後、どういうわけか、久乃は文化祭委員で佐倉の呼び出し係に任命されてしまった。
憧れの先輩との接点。本来ならそれは、この上もなく喜ばしい事のはずだが、実際についたその係の仕事は、そう楽しい事とはいえなかった。
その役割のお陰で、久乃は文化祭委員会の会合がある日、帰りのホームルームで担任の話が長くなる度、気が気ではなくなるようになった。佐倉が2-3の教室を出るより前に久乃がそこに辿り着けなければ、その後数十分、学校中で佐倉を探し回る羽目になるのだ。
夏休みが終わり、九月も半ばになったこの日も、担任の話が10分オーバーした為、久乃はホームルームが終わったと同時に慌てて鞄を肩に掛け、急いで自分のクラスを飛び出した。
階段を一階分下り、二年のクラスが並ぶ廊下を三組まで走る。慣れないうちは、一年の自分が二年のテリトリーにいるというだけで萎縮していたが、今はもう、そんな気弱なことは言っていられない。なんとしても速やかに佐倉を確保しないことには、久乃の委員会活動に支障が出てしまうのだ。
久乃が着いた時には、既に2-3のホームルームは終わっていたようで、教室内の生徒もちらほらとしかいなかった。久乃は僅かな望みをかけて教室の人影の中に佐倉の姿を探したが、残念ながら彼の姿は見当たらなかった。
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