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教室内を探す事を諦めた久乃は、もうすっかり顔馴染みになってしまった廊下側の一番後ろの席に座る先輩女子に尋ねた。
「すみません。佐倉先輩、どこに行ったか知ってますか?」
「あ、トミーちゃん…てことは、今日、文化祭委員か。ちょっと待って。ねぇ、井上君、佐倉君どこ行ったか知ってる?」
「トミーちゃん」というあだ名は2-3と、文化祭委員会とだけで広まった久乃のあだ名だ。佐倉が久乃の事をトミートミーと呼ぶうち、すっかり定着してしまった。
先輩女子に呼びかけられ、先輩男子の一人が振り返った。久乃は彼とも既に顔見知りである。
「佐倉?知らないけど、今日暑いし、いるなら校舎内じゃね?」
井上先輩はそう答えつつ、教室の入口に立つ久乃を気の毒そうに見た。久乃が先輩二人にお礼を言い、まずは図書館に行ってみようと駆け出そうとしたのを、先輩女子が呼び止めた。
「はい、これ。佐倉君のお守り、ご苦労さまです」
小さなチョコレートをひとつ、手渡された。彼女の瞳には、久乃に対する労りと同情がありありと見て取れた。久乃は有り難くチョコレートと気持ちを受け取りつつも、自分をこんな目を向けられる身の上にした佐倉を、恨めしく思った。
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