シークレット・ラブ

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 榊くんは私じゃなくて、燎が好きだったのだ。  だからあの視線は私ではなく、燎に向けられていたものであって……あの席替えの時の苦虫を噛み潰したような顔も、私に対する嫉妬心からだったのだ。  期待していた分、期待が外れてしまった時のショックは想像を絶するほど大きい。崖から突き飛ばされるかのような、絶望感が全身を覆っていく。 「おいっ! 何で泣いてんだよ!」 「う、うるさいっ、馬鹿!」  気づけば私は膝から崩れ落ち、涙でアスファルトを濡らしていた。 「あーもうっ!何がなんだか訳わかんねぇ」 「ミモザの花言葉で調べなさいよっ……何の為のスマホなのよ!」  八つ当たりに近いと分かっていたが、そう言わずにはいられなかった。  私が泣いているからなのか、燎は何か言いたげな顔をしたものの言い返したりはせず、スマホを操作し始める。  その様子を見ていられず、私は涙を流し俯き続けた。 「よく意味がわからねーなぁ……」  ボソッと言葉を零す鈍感な幼馴染に、私は重たい顔をあげる。 「好きな人に渡して、無言で受け取ってもらえれば付き合ったことになるんだってば!その事を私が榊くんに教えたのっ」  私は半ばヤケクソになって、語気を荒げる。 「要は、榊くんはあんたの事が好きってこと!」 「えっえっ?」  今度は燎が馬鹿みたいに「えっ」という言葉を繰り返し始める。 「えっじゃなくて、どーすんのかはっきりしたほうが良いんじゃない」  冷たいアスファルトから私は立ち上がると、黙って俯く燎を残して先に歩きだす。  燎がどうするのか気になったけれど、今は聞かない方が良いだろうし、自分も聞きたくなかった。  私の思い込みで起こした行動によって、秘密の恋が明らかになってしまったのだから、この事は他言するつもりはない。  それ以前に、言えるわけなかった。  私の青春はまだまだ遠そうだなと、静かに袖で涙を拭った。 
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