シークレット・ラブ

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 廊下に燎を引きずり出し、教室から離れた階段の付近まで連れ出す。 「い、いてぇーよ。三咲! なんなんだよ」  少し怒ったような口調で、燎が声を荒げた。 「静かにして。ほんと騒がしいんだから」  私は周囲を伺い、誰も居ないことを確認すると声を潜める。 「あのさ、榊くんの好きな人って知らない?」  仲の良い燎だったら、知ってるんじゃないかと期待があった。 「しらねぇーよ」 「本当に? あんた達仲いいじゃん」 「本当にしらねぇーから。何なのお前、まさか隆也の事の好きなの?」  不機嫌そうな顔から一転、燎がニヤニヤと面白そうに口元を歪めている。 「だから何? あんたの許可が必要なわけ?」  さっきまでの改めていた気持ちはどこかへ消え去り、いつもの様に口調が荒くなってしまう。 「別にそういわけじゃないけど……良いよなー隆也はモテてさ。俺なんか全然告白されないし」 「あんたは顔は悪くないけど、子供っぽいもの。それよりも、こっそり調べてくれない?」  私は燎の肩を両手で掴むと揺さぶる。 「えーやだよ」  首をガクガクと上下に揺らしながら、燎が気だるげに言葉を吐き出す。 「お願い! 焼き肉奢ってあげるからさ」 「本当に?」  されっぱなしだった燎の目が輝き、私の肩を掴んだ。  その力強い手に、ああ、こいつも男だったんだと何故か感慨深い想いが込み上げてくる。 「ほ、ほんとよ。ちゃんと聞けたら、食べ放題を奢ってあげるから」 「分かった! ちゃんと聞いとくからさ、三咲も約束守れよ」  燎がとびっきりの笑顔を私に向けてくる。そのあどけない表情にドキッとして、私は酷く狼狽える。  まさかこんな奴を好きになるはずなんてないと、私は慌てて思考を振り払った。
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