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冬の凍てつくような風が全身を包み込んでいく。寒さが身に染みるが、構っていられない。
トドメを刺すように、眩しいぐらいオレンジ色に輝く夕日が目に染みた。
「さぶいなー、なんでここなんだよ!」
「良いから! 話って何なの?」
抗議の声を遮るように、私は寒さと緊張で震える唇を動かした。
「まぁいいや。それよりもさぁ、これなんだけど――」
燎が不満げな表情で鞄から取り出したものに、私は呆然としてしまう。
燎の手の中で黄色い花が風に揺れ、夕日の光を浴びて一気にオレンジ色に染まった。
「な、なんであんたがそれを……」
「なんだ、やっぱり三咲が知ってるんだ」
燎が少し困ったように笑った。どういう事なのかさっぱりで私の頭の中が真っ白になる。
そこでハッとして、燎を見つめる。もしかすると、燎が私の事を好きだからと、榊くんが気をきかせてくれたのかもしれない。
そう考えると途端に、目の前の幼馴染を異性として意識してしまう。恥ずかしさからか、カァーと全身が熱くなった。
「隆也と昼休みに二人で校庭で飯くって戻ろうとした時、黙って受け取ってくれって隆也にこの枝渡されたんだけど……意味わかんなくて、聞こうと思ったら――」
「えっ、えっ?」
私は馬鹿みたいに、「えっ」としか言えない。まるで一文字しか喋れない生き物みたいに……
「アイツ泣きそうな顔で、矢神に聞いてほしいって……燎と仲良いからいずれバレることだろうしって、訳分かんないこと言われたんだけど、どういう事なんだ?」
困ったように眉根を寄せて「あんな顔初めて見たし」と言う燎に対して、私はとんだ誤解をしていたのだと気付かされた。
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