第四章ー2

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「いらっしゃい」 和菓子屋の暖簾をくぐり、今日も菊屋へやって来たのは、雪さんだった。 「まぁ、雪ちゃん。今日も来てくれたん? ありがとうな」 千恵子おばさんにそう言われて、彼女は丁寧に頭を下げる。 「今日は大福をいただこうと思って」 「何大福にする?」 「じゃあ、塩大福お願いします」 「了解」 彼女が選んだ塩大福をトングで包み込むようにして挟む。 柔らかなお餅が形を変えて、運ばれる。彼女はその様子を覗き込んでいた。 「美味しいよ、はい」 「ありがとう」 彼女は紙で包んだ塩大福を受け取ると、ちょうど一人分だけ空いていたイートインスペースに腰かけた。 この場所が空いているなんて、この時期じゃ珍しいことだった。 僕は温かいお茶を注いで、彼女のテーブルに置く。
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