6人が本棚に入れています
本棚に追加
「いらっしゃい」
和菓子屋の暖簾をくぐり、今日も菊屋へやって来たのは、雪さんだった。
「まぁ、雪ちゃん。今日も来てくれたん? ありがとうな」
千恵子おばさんにそう言われて、彼女は丁寧に頭を下げる。
「今日は大福をいただこうと思って」
「何大福にする?」
「じゃあ、塩大福お願いします」
「了解」
彼女が選んだ塩大福をトングで包み込むようにして挟む。
柔らかなお餅が形を変えて、運ばれる。彼女はその様子を覗き込んでいた。
「美味しいよ、はい」
「ありがとう」
彼女は紙で包んだ塩大福を受け取ると、ちょうど一人分だけ空いていたイートインスペースに腰かけた。
この場所が空いているなんて、この時期じゃ珍しいことだった。
僕は温かいお茶を注いで、彼女のテーブルに置く。
最初のコメントを投稿しよう!