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そうこうしているうちに今日もすぐ店内はいっぱいになり、彼女は食べかけの塩大福を持ったまま、軽く会釈をして店を出て行った。
「あ……」
もう今日は帰ってしまうのか。
そう思う僕の気持ちは、表情に出ていたのだろうか。千恵子おばさんが声をかけてきた。
「隆ちゃん、そろそろ休憩の時間やな」
「さっき休憩もらったばかりだけど?」
「そうやったかな。なら、今日は美樹ちゃんもいてくれるし、隆ちゃん、あがってくれてええで」
“美樹ちゃん”とは、バイト仲間のことだ。
よく働く僕と同じ大学生。
「ほんとに?」と千恵子おばさんに言ってから「いいの?」と美樹ちゃんを見る。
美樹ちゃんはコクリと頷き、千恵子おばさんは、
「今から追いかけたら、まだ間に合うやろ?」
ウインクでも飛び出そうな言い方でそう言った。
「ありがとう、叔母さん! 美樹ちゃん!」
そう言うが早いか、僕は着ていた割烹着を脱いで、引き戸をガラリと開けて外へ出た。
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