7人が本棚に入れています
本棚に追加
休みの日は、朝から夜まで一緒に過ごし、バイトの日は、終わってから会った。
今日はバイトの日だった。閉店準備のために、暖簾をしまおうと外へ出ると、茜色をした夕焼け雲が流れる疏水沿いに、愛しい人が立っていた。
バイト終わりに彼女が菊屋へ来てくれたのだ。
僕は右手に暖簾を持ち、左手に彼女の手を握り、お店の中へと戻った。
「あれ? 雪ちゃん? 買いに来てくれたん? ごめんなぁ。今日はもう全部売り切れてしもうて」
客は誰もいなかった。彼女が最後のお客だと勘違いをした千恵子おばさんに、僕は言った。
「違うんだ、千恵子おばさん、今日は紹介したくて」
どうしてこんなふうに思ったのだろう。僕は、友達の雪さんではなく恋人になった雪さんを、千恵子おばさんに紹介したいと思っていた。
僕の気持ちを知らずについてきた彼女は眉を寄せて、不思議そうに僕を見上げる。
「雪ちゃんやろ? 知ってるで」
「そう。僕たち、今、付き合ってるんだ」
「ほんま!?」
最初のコメントを投稿しよう!