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僕は息もできずに、穴が開くほど彼女を見つめた。
唐突な答えに面食らって動けなくなった僕に、彼女は話を続けた。
「ずっと、私が消していた」
「ずっと……?」
「そう。春になると、私は過去へ行って、あなたに降りかかる不幸をすべて消していたの」
「……それは、どうして?」
目の前にいる彼女が、僕の知る雪さんではないようだった。
「今から言う話、信じてもらえないかもしれないけど、嘘じゃないから……」
彼女の顔に、深い影が落ちた。
「私の名前は、市井雪。佐倉雪は……旧姓なの」
「……市井って……」
「そう。隆哉君の苗字と同じ。私は、あなたの未来の奥さんなの……」
耳にひゅうと隙間風のような音が鳴った。
思考が停止している。彼女の言った言葉の意味がわからない。
途方に暮れ、困惑し、ただ茫然と立ちすくむ僕に向けて、彼女は淡く微笑んだ。
そして、瞳の奥に光る透明なしずくを抱えながらも、まっすぐに僕を見て言葉を続けた。
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