第6章

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気持ちが半分しかこもってない……か。 まさにその通りだった。 今日は、朝からデートの予定だった。 映画館に入ると、横目に一喜一憂する彼女の姿が見えた。 青くなったり赤くなったり、時に涙したりする姿は、かわいかったし、そんな彼女をずっと見ていたいとも思ったけれど、僕は昨夜の情景を思い出していた。 それははっきりとした映像となり、スクリーンに映し出されていた。 僕が見ていた映画は、昨夜の桜の下で消えてしまった雪さんの姿だった。 目の前で彼女が消えた。 あの時、僕は、自分が消したのだと思った。 もちろん、彼女のことを、今まで一度も嫌だと思ったことなどなかった。昨晩もだ。だから、消してしまった理由はわからない。けれど、突然変異は何にでも起こる。 桜の下で何かを消すことをできるのは、僕しかいないのだ。 僕が、彼女を消したんだ――。 絶望の果て、僕は持っていた写真をポケットにしまってから、鉛のように重い体を何とか動かして、彼女が消えた場所へ行った。
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