第6章

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その瞬間、一瞬意識が飛び、ふらついた。ガクっと足元から崩れ落ちそうになる。 「どうしたの? 本当に大丈夫?」 彼女は華奢な体で、体勢を崩した僕を支えようとする。鼻先に彼女のシャンプーの匂いが届いた、昨日知った彼女の匂いだ。 「もしかして、隆哉君、体調悪いの?」 「いや、寝不足なだけだから」 「少し休めるところへ行く?」 「助かる。ありがとう」 それから僕たちは、鴨川のほうへ向かった。ここは動物園デートのあとに行ったのと同じ場所だ。 川沿いに腰を下ろす。目の前に鴨川が、さらさらと流れている。 夜見た鴨川は月明かりに照らされて、反射する水面が美しかった。昼の鴨川は、恋人たちが集まり、親子が散歩していて、その先には笑顔が溢れている。 活気のある鴨川は、あの夜と同じ川だとは思えない。 そばにいる彼女から、花の匂いがした。あの夜には気づかなかったが、太陽に照らされ、残りの花を精一杯咲かす桜の木があった。
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