第6章

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風に吹かれ、花びらが飛んでいく。桜の花びらが、水面に浮かんでは流れていった。 もう春も終わるのだと、この川沿いの桜を見ると感じずにはいられなかった。 「昨日、寝てないの?」 春の風景を眺めていると、僕の顔をのぞき込んで彼女が言った。 寝不足なんて、平気だ。ただ寝ていないだけなら。 昨晩は、自分の中にあるだけの力を振り絞って、桜の木の下にいるであろう彼女を捜し回っていた。黒い夜が深々と迫ってきた。手足がドロドロとした感覚で、覆われているかようだった。それでも僕は、消してしまった彼女を探し続けることしかできなかったのだ。 ――『いつか、大切な人を消してしまうのではないか』 最悪の事態を、僕は招いてしまった。 必死に彼女を探しながら、僕は消えゆく彼女の姿をも思い出していた。 雪さんは、雨を確認するみたいに掌を上にむけて桜を見ていた。そして爪の先からハラハラと消えていった。 消えゆく彼女の横顔は、とても涼やかだった。 消えることを望んでいるような、その美しすぎる横顔を、僕は吸い込まれるように見つめていたのだ。
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