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「隆哉君、ほんとに大丈夫? やっぱり昨日、全然寝れなかったんじゃない?」
返事を忘れた僕に、彼女がもう一度問いかけた。
「うん……寝てない」
僕は正直に答える。
「どうして?」
「君を、捜してたんだ」
全部、話すしかない、と思った。
「……どういうこと?」
「これ……」
僕は一握りの勇気とともに、持ってきた赤い手帳を彼女の前に差し出した。
「あれ? 私、手帳忘れてたんだ。どこへやったんだろうって思ってたの、あ」
彼女は途中で何かに気づいたようだった。
とっさに赤い手帳を受け取ると隠すように持ち替えて、狸の可愛い顔でへへへと笑う。
その笑顔にずっと騙されていたかった。僕は昔話の主人公が狸に騙され、結末を知る前の気分がよくわかった。
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