第6章ー2

3/10
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
同じことを思っていたのか、通じ合えたのか、彼女がぽつりと言った。 「なんだけ、この雨の音。そうだ、わかった。子犬のマーチ。隆哉さんが弾いてたわ」 「未来の僕は、ピアノを弾くの?」 「ううん。弾けないから練習してたの。子どもたちにピアニカを教えなきゃいけないから。それはそれは必死だよ。大きな指で必死に練習してるの、可愛かったな」 「いや、大の男が必死にピアニカって、全然可愛くはないと思うんだけど。でも、どうして? ピアニカって」 もしかして、と直感が働いた。5年後の僕は―― 「そう。隆哉さんは今、小学校の先生なの」 「なれたんだ」 「もちろんだよ。隆哉さんは今、私の住む田舎の小さな小学校で先生をしている。隆哉さんは誰にでも平等で優しくて、ちょっと熱くて。人気者の先生だよ」 褒められて嬉しいのに、どこか悔しくも思う。同一人物のはずなのに、実感がないせいだろうか。彼女が他の男のことを話しているような気にもなって、なぜか妬けた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!