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あぁ……
そうだったのか……
あの事件の日、彼女が消えたのは、すべての力を使い切り、この世から消えたわけじゃなかったのか。
彼女の体力がゼロになる前に、桜の季節が終わったのだ。
彼女は、体力がなくなりこの世から消える前に、自分の世界へと戻された。
きっと、桜たちが守ってくれたのだろう。
ともに不思議な世界の中で生きていた大好きな彼女を、桜たちが守ったのだと思った。
「どうかされました?」
まだ何も知らない彼女に僕は言った。
「いえ……ただ、嬉しかっただけです」
君が生きていてくれたことだけが、この世に存在してくれていることだけが、こんなにも嬉しい。
不思議そうに首をかしげる彼女の目は、まだ少女のようにあどけない。
まだ恋も知らない。無垢な女性がそこにいた。
「初めまして。僕の名前は市井隆哉と言います。今日からこの町でお世話になることになりました。……よろしくお願いします」
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