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胸の奥がきしむように鳴く。
その音をひた隠しにして、僕は丁寧に言葉を紡ぎ、頭を下げた。
「そうでしたか! 何も知らずにすみません。私はずっとこの町に住んでいるので、何かわからないことがあったら、いつでもおっしゃってくださいね」
「はい。では、失礼ですが……お名前を教えてもらってもいいですか……?」
何も知らない君と、山桜に覆われた美しいこの町で。
「私の名前は……」
もう一度、新しい恋を始めよう。
巡り巡った運命の糸が、繋がったこの奇跡を、そっと抱きしめて。
誰よりも大切な君を、愛し続けることをここに誓うよ。
「佐倉雪です」
狸のように可愛い君と、ずっと一緒に。
【完】
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