先輩

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――放課後の学校。  私は桜の木の下で、とある先輩を待っている。 「先輩早くこないかな……。渡したいものがあるのに……」  待ち焦がれる思いを呟きながら、私は手に持っているソレを眺めた。  ソレは卒業する先輩に渡しておきたい物が入ったラッピングされた小包と、クローバーとウサギが一緒に描かれている可愛らしい封筒だ。 「ゴメン! 前野ちゃん、遅れた!」 「如月先輩!!」  待ち人である如月先輩が来たのと同時に、私は持っているソレをとっさに後ろに隠す。 「それで……、俺に話したいことって、何かな?」  先輩は走ってきたのか、息を肩で切らしながら、用件について単刀直入に聞いてきた。 「えっと……、実はですね。……先輩に渡したい物があるんです」  口ごもりながら、私は背後に隠した小包と封筒を先輩の前に差し出した。 「うん? これは?」  先輩は差し出した小包と封筒を一度見てから首を傾けて、その二つについて聞いてきた。 「これはですね……。ええっと……」 「時間はまだあるから、ゆっくり考えてていいよ?」  まさか疑問を投げかけられるなんて思いもしなかったから、どう答えようかと思考がぐるぐると頭をめぐり、しどろもどろになってしまった。  諭してくれる先輩に申し訳ない気持ちになりながらも、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせた。 「卒業する先輩に、私の気持ちを込めて手紙を書いたんです。あと、いつもお世話になった意味合いを込めて、プレゼントをしたくて……とりあえず、受け取ってください!」  それぞれの前のめりになりながら先輩に渡す物をもう一度差し出した。 「……」 「!!」  先輩の指が当たった感覚と両手にあった重みが消えて、顔を上げると先輩と目が合う。 「……ありがとう」  とても優しそうに細められた表情を向けて、春先とはいえそれ以上に体温が暖かくなっていくのが分かった。 「そ……それでは! さようなら!!」 「え!? ちょっ……!」  今更とても恥ずかしくなって、私は先輩から逃げるように、回れ右をしてその場から走って逃げてしまったのだった――。
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