第一章  死体と彼女と行方不明

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第一章  死体と彼女と行方不明

 和樹はアパートの扉の前で一つ深呼吸した。Tシャツに半袖の上着、ジーンズ姿の体は細身で長身。切れ長の目に、左右対称の口元。まあまあ結構かっこいい部類に入る少年だ。  和樹は、震える指をインターホンに近づけた。しかし、その指はボタンに触れる前に引っ込められる。 「かあああ! ダメだぁ!」  小声で叫んで、まるでおもちゃをねだっている子供のようにじたばた足を動かした。通りすがりのおばちゃんが、『なにかしら、この子』の視線を向けて来るが、知ったことじゃない。惚れた女の家の前に、初めて立っているのだ。緊張するのが当たり前だ。 和樹がここにいる理由は、すごく簡単。羽原が、バイトに来なかった。しかも、無断欠席だ。サボり癖のある奴なら、特に珍しいことではない。けれど、彼女はバイト開始時間十五分前にはエプロンをかけてカウンター前にスタンバイしているような奴なのだ。おまけに店長曰く、電話をしても連絡が取れないという。かくして、心配性の店長から様子を見て来い、と嬉しくも恥ずかしい命令が下ったというわけ。     
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