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『彼女一人暮らしだし、お風呂場で倒れてなければいいけれど』なんて店長は言っていたが、和樹はそれほど心配していなかった。羽原は、和樹と同じ高校生だ。冬のお年寄りじゃあるまいし、あの若さでぽっくりいくわけがない。まあ、風邪でも引いて寝込んでいるのだろう。そんなことより、玄関先で自分をみた羽原がどんな反応をするかが心配だ。
和樹が、ぐっと拳を握り締めた。
羽原には悪いが、これはチャンスだ。病気で弱っている所に、心配して見舞いに来てくれた男。女なら、クラッと来るだろう。たぶん。
(がんばれ、俺! 負けるな、俺! 行くぞ、俺!)
核の発射ボタンでも押すような心境で、和樹は茶色のボタンを押した。部屋の奥でチャイムが鳴ったのが聞こえる。が、返事がなかった。
「おーい、羽原。生きてるか~」
閉まったままの扉に話しかけるが、やっぱり返事はない。
「どこか、買い物にでも行ったのか?」
良く考えれば、一人暮らしの場合熱があろうが吐き気がしようが、食べ物や薬は自分で買ってこなければならないのだ。両親がいるありがたさを噛締めながら、和樹はドアノブに手をかける。
ドアノブは、あっさり回った。戸を開けるためというよりも、鍵が掛かっている確認のためにノブを回した和樹は、思わずそのままの格好で固まってしまう。
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