第五章 悪はざわめく

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第五章 悪はざわめく

  そこは、タバコの臭いが満ち溢れていた。大きな窓にはブラインドが下ろされ、薄暗い。 黒瀬は、木目の美しい机についていた。机の上には重たげなバカラの灰皿が、たっぷりと灰をためていた。 黒瀬は細い顔に、白髪混じりのオールバックの髪。がっしりとした体格で、四十にしては若々しい。薄暗い部屋の中なのに、なぜかサングラスをしている。 「で、鎮乃目センセ。随分ごぶさただったが、何の用だい?」  黒瀬は正面に立っている男が何をたくらんでいるのかを見抜こうとした。 「何、なんてことありませんよ。ただ、仕事をもらおうと思って」  鎮乃目は、細身の男で黒いジーパンに濃紫のワイシャツを着ている。そしてその上に白衣を引っ掛けている。  サングラスの下にある唇が愉快そうに笑った。 「仕事? 一応私の会社は貿易商だ。法に触れる物も流しているが、そうそう流血沙汰は起きないよ。医者の必要はない。それとも、センセが街で薬でも流してくれるってのか?」 「おや、これは意外だ。喜んでくれると思ったんですが」  鎮乃目はふところから取り出した紙をつまむとぴらぴらと振って見せた。カルテだった。 「ほら、これもありますよ」     
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