猪山

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猪山

 風が身体を包み、激しい振動に心も震える。  蛇行した坂道をMTBで凄まじい勢いで駆け下りる。  (しん)(どう)(あか)()の精神は(おの)ずと集中した。  叔父の鬼多見悠輝から、座禅をするよりも無心になれると言われて始めたMTBだが、思った以上に効果があり、すっかりハマってしまった。  ここは(いのしし)(やま)の西側に、悠輝が作った里山トレイルだ。  南側には墓地があり、東側には(いぬ)()()(いぬ)()(じん)(じや)、そして朱理たちが住む()()などがある。  この小山自体が戌亥寺の所有になっているのだが、檀家から苦情が来ないか朱理は心配していた。  当然、住職で祖父の法眼も怒っていたが、「修行の一環だ!」と叔父が主張し、強引に造ってしまった。  出来てからも祖父の怒りは収まらなかったが、朱理がこのトレイルを使うようになると、ピタリと何も言わなくなった。  それどころか、去年の十二月には誕生日とクリスマスのプレゼントを合わせて、このLivのTEMPTを買ってくれた。  悠輝は高校に入学した時、法眼に自転車を買ってもらえなかった話をしていたが、天地ほども対応が違う。
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