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激昂するという言葉自体は魔界にも存在する。
しかし如何やら其れは、少なくとも感覚としては魔族に、或いはオレに備わっていないものらしい。
怒りは一瞬且つ穏やかに。もしも此の怒りに何らかの音が付随するのであれば、其れは微かに一瞬だけ、ぷつんと。
「……嗚呼。天使は禄でもない種族で、オレ達の本当の敵が分かったっすよ」
光を亡くした双眸で天を仰ぎ、ミスティの血肉に塗れたまま、最早皮膚片だけと化した幼馴染を掻き抱いてシィラは呟く。感情の一切が削ぎ落ちたかの如く低く冷たい声音が、ただ其の場に溶ける。
一緒に生きるっす。オレがアンタの剣になるから。盾になるから。だから。死に急ぐ事を止めてくれた幼馴染の皮膚片を、宛ら己の身に取り込もうとせんばかりの勢いで強く。壊れ物を扱うかの如くやさしく胸に掻き抱き、シィラの虚ろな双眸は1点の濁りもなく昏い炎を宿して。
「殺してやるっす。完膚無き迄に。徹底的に。跡形もなく、ぶっ殺してやるっすよ。カミサマ」
平和主義である魔族が決して口には出来ぬ殺意を、抱かぬ筈の殺意を抱えて、シィラは幼馴染がぶち撒けさせられた血肉の中、朗々と堂々と宣言した。
「嗚呼! 此れがお前等の手法、此れが正義と語るなら、オレは堂々と牙を剥く! お前等が都合良く押し付けたお望み通りの“魔族”になってやるっすよ!!」
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