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もちろん魔法を発したのはミスティで、何故そんな事をしたのかもよく分かっているけど。
「何するんすか、じゃねぇよ。天使長に送るって言ったよな? なら頭の良いお前の事だ、重要な手紙だっていうのも分かるよな?」
「どこが重要なんすかね? オレには下らない手紙にしか見えなかったっす。あれが他の魔族の目に入ってみなよ? また抗議されるだろうし、騎士団、特に団長の目に入ったら軟禁されかねないっすよ? オレの段階で葬り去ってやった事に感謝すべきっすね」
自分の首と引き換えに戦争の終結を、なんて、ぞっとする。なぜこの男は自分の命を捨てる事しか考えていないのか。違う、それは今に今始まった事じゃない。歴代魔王は、少なくとも文献に記されている限りでは全員そうだ。何?魔王って自己犠牲の精神が旺盛じゃないとなれないの?
それに、天使が戦争を終結させる気が無い事なんて歴史を振り返れば明らかだ。天使は好戦的だから、適当かつ手軽に戦争を仕掛けられる魔族を手放そうとは思わないだろう。加えて斬首の時には、文字通り血を浴びる事が出来る。人間の間に伝わる天使のイメージに反して好戦的、否、戦闘狂と表してさえ生温いくらい戦闘や血に飢えた種族にとって、その瞬間は至福の1言に尽きる筈だ。魔族が戦争の終結を望んでいる事をよく知っているアイツ等は、戦争終結を餌に魔王の首を請い、平和主義の筆頭たる魔王はそれに釣られて己の首を差し出す。
歴代魔王が決して少なくない人数その方法で逝去されているというのに、魔王様は学習能力が欠如してらっしゃるのか。
或いは平和を願い、誰よりも魔族を大切に思っているからこそ、可能性に賭けているのか。
今度こそ戦争を終結してくれるかもしれない。もう血を浴びるのに満足したかも。今の天使長であれば話が通じるかも。
そんな風に、極々低い可能性に賭けて。
そうだとしたら馬鹿みたいだ。
オレ達の本当の望みを知らぬは当人ばかり。否、当人も知っているのかもしれない。知っていて、でもオレ達に平和をと、望まぬ犠牲を重ねているのかも。
そして遠くない将来、オレの幼馴染であるミスティもそんな御遺体の山を成す1つになってしまうのか。
そんな事させない。させたくない。
未だ不満げで頬を膨らませているミスティの腕を、オレは思わず強く掴んだ。
ぷりぷりと幼子の様に怒っていたミスティの顔が一瞬で驚愕に転じる。
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