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「天使は手頃な殲滅対象を手放す気なんてないっす。本当はミスティだって分かってるでしょ?」 「……物には限りがある。それが感情であれ衝動であれ、何時か終わりは来るだろ。天使が戦闘に飽きるのは、今かもしれない」 「飽きねぇっすよ。飽きないから今もまだ、天使と魔族は名目上戦争をしてるんでしょ」  己が掲げる主張がどれほど楽観的か、真に理解をしているのは、或いは魔王様本人であるのかもしれない。ミスティに限らず歴代の魔王様方はそれがどれほど楽観的な考えで、オレの様な人間であれば容赦無く「馬鹿な事」と切って捨てる考えであるのか。  しかしそう思っていても、「今かもしれない」という考えを彼等は捨てきれない。だから己の命で平和を得られる可能性に手を伸ばすのだろう。その双眸に、自分が1つと果てるだろう死体の山が映っていても。  成る程、国民想いのやさしい王様。  天使が押し付け人類達が抱く魔王像とは懸け離れた姿だ。御立派な王様と表して過言ではないだろう。  でも、やはり歴代魔王様は馬鹿なのだ。オレの幼馴染であり現魔王様たるミスティも同様に大馬鹿者である。 「縦しんばアンタが天使長に首を捧げた事で天使長が満足して、停戦協定を結んだとしても。それで魔界に平和が訪れたとしても」  そう。万が一。億が一にもありえないけれど、兆が一の、天変地異さえ巻き起こしかねぬ気紛れを天使側が起こし、この戦争が終結したとして、そこに何が残るというのだろう。  戦争のない世界。天使からの襲撃に怯えず、人類の侵略に震えぬ毎日。あわよくば神族が天使や人類に時折施すという恩恵にさえ預かれるかもしれない。  一言で語れば平和が残る。歴代魔王が焦がれ、魔族の誰しもが望んでいた平和が訪れる。でも、それが遺って何になると言うのだろう。  行かせたくない。  その渇望が、切望が、ミスティの腕を掴む手に力を込めさせた。僅かに顔を歪め痛みを訴えた事に気が付いたが、力を緩められそうにはない。まるで、そうしたらミスティが消えてしまうとでも言う様な焦燥に襲われている。  馬鹿げた親書を目にした所為で、オレも子供じみた焦燥に憑りつかれたらしい。ミスティが本気になればオレの手なんて振り解くのも、消し飛ばす事さえも容易いのに。 「アンタも歴代魔王様も大馬鹿っすよ。確かに平和は欲しいけど、そこに大好きでお慕いしてる魔王様がいなきゃ無価値なんすよ」
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