雑音ジャングル

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 新宿が音で溢れてることに今さら気がついた。  自動車の音は年々静かになっていってるらしいけれど、人の出す音は変わらずうるさい。いやもしかしたら年々音量をあげつつあるかもしれない。というか待てよ自動車も人間が動かしているから、静かになっているとはいえやはり微々たるものだし、車の音も加わると総じて人間は年々うるささを増しているってことなのか。まあ人間年取るとうるさくなる人多いし、日本人はその典型みたいなところあるし、世界の騒音は日本から生まれているのかもしれない。意識しないと気がつかないあたり俺もすっかり慣れてしまってるんだな。染まっちまった悲しみに。なんてな。  意識しなければなんてことない雑音だけど、こうして何もすることなくぼおっと街にいるとそのうるささに驚かされる。人間って集まるとこんなにいろんな音を出しているだ、なんて知っていたはずなのに知らなかった新既存事実。足音なのか話し声なのか店から漏れ出るBGMなのか、何が何やらわからないけど賑やかなもんだ。  一月二回目の日曜、寒空の下、紀伊国屋の前で人通りを見つめながら、この一員にならずにいる自分がなんだか少し怖い。少しでも歩き出せばその中に入れるってのに、この濁流に飲まれるのはどうにも腰が引けてしまう。用事も、まあ一つすっぽかされたけど全て終わったし、あとは帰るだけだっていうのに、何故こうして壁に寄りかかってせっかく買った本も読まずに人の流れに圧倒されているんだろうか。数分、いや数十分前まで俺だってこの中に入っていたのに、まるで嵐の海みたいだ。見たことないけど。  こんなことを考えていたくせに、あ、タワレコに行くの忘れてたわーで体は簡単に動いて波に乗り、分け入っていく。いい加減だわ本当に。発売日を間違えたとことか。おかげで歩き出せたから結果的に良かったと言える。良かったと言おう。うんうん良かったよかった。
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